トイレットぺーパーが外されない
鍵つきホルダー
認知症の方がトイレを使用した際、トイレットペーパーを外して持ち出してしまったり丸ごとトイレに流してしまうケースがある。
そういった悩みを解決するために開発されたのが、ふくい菜の花工房が発売する「鍵つきトイレットペーパー 紙の番人」。
トイレットペーパーの設置箇所に鍵が取り付けてあり、外せないようになっている。
施錠する部分は一目見てもわからないため、認知症の方が「管理されている」というような不快感を与えないよう配慮されている。
耐久性にも優れ、大人が力一杯引っ張っても外せない。材質に檜が使用されているのは、木の頑丈さとともに手作りのぬくもりを与えるために採用された。
そんな鍵つきトイレットペーパーホルダーを開発したふくい菜の花工房の島崎さんに話を伺った。
<取材協力 / ふくい菜の花工房 島崎 慎一さん>
試作から完成までの試行錯誤の道のり
島崎さんは開発するきっかけについて、
「私は30年間、知的障害者施設で利用者さんの生活のお手伝いをしてきました。
その中で痛感したことは、利用者のための福祉用具はあっても、介護者のための便利用品があまりないことでした。
そのためメーカーに頼ることなく、自分の手で道具を作ろうと思ったのです。」
と話す。
鍵つきトイレットペーパーホルダー紙の番人は、何度も試行錯誤して今の形になった。
「最初は市販のトイレットペーパーホルダーに板で囲いをして、トイレットペーパー上部の蓋が持ち上がらないようにしました。
しかし、実際に使用してみるとトイレットペーパーが半分程になると外せることが分かり、改良を重ねました。
芯棒の部分については、当初極太ボルトを使用し、ボルトが外せないようにカバーを付けて施錠したものを作って使用してみたところ、トイレットペーパーでトイレを詰まらせることはなくなりました。
しかし、いちいち施錠を外してボルトを緩めてペーパーを装填するのが面倒で、紙がなくなっているのにいつまでたっても装填されないという事が起こってきました。
機能一点張りで使い勝手が悪ければ、商品として意味がないと実感しました。」
と島崎さんは振り返る。
そして設計図を何度も書き直し試作を重ね、機能と使いやすさ、見た目を追求した結果、現在の商品になるまでに10年かかった。
何とかしてあげたい。介護現場の経験を元に開発
もともとこの商品を開発したきっかけは、島崎さんの介護現場での経験が元となっている。
現場では、利用者の方がトイレットペーパーでトイレを詰まらせてしまうことが何度もあった。
その都度、業者を呼んで直してもらうのは大変なので、どうにか工夫してトラブルをなくせないかを考えたのが始まりだ。
認知症患者がトイレットペーパーを詰まらせてしまう理由について島崎さんは、
「言葉の出ない方ばかりだったため本当のことは分かりませんが、排便をしたらトイレットペーパーでお尻を拭き、拭いたトイレットペーパーは便器に捨てると教わってきたからではないでしょうか。
つまり、「拭いたトイレットペーパーを便器に捨てる」ことが短絡して「トイレットペーパーは便器に捨てるもの」と理解したのかもしれません。
ご本人は教わった通りにやっているつもりですから、叱られてもなぜ叱られたのか分からず、理不尽に思っていたかもしれません。これはとても気の毒です。」
と話す。
認知症の方からすると、言われたことをやっている認識にもかかわらず怒られるためどうしたらいいかわからないという感情になってしまうのかもしれない。
島崎さんは、ただ問題を嘆くのではなく、きちんとそれに向き合って対応を考えるのが大切だと話す。
「もちろん、ご本人に対する支援や指導は根気良く取り組む必要がありますが、それ以前に「トイレットペーパーが丸ごと取り外せなければ良いのでは?」と考えるのは自然だと思います。
起きてしまった事を責めるのではなく、まず問題自体が起こらないようにする環境作りが大切です。」
「鍵つきトイレットペーパーホルダー 紙の番人」には、認知症の方が起こしてしまうトラブルを未然に防ぎ、認知症患者とその家族の双方が安心して暮らせるようにという思いが込められている。
双方がハッピーでいるために。
認知症介護をするうえで知っておきたいこと
島崎さんは、“一番伝えたいのは本人に悪意はない事”だという。
「認知症の方は、ふと我に返って「何で私はこんな事をしたんだろう」と、自分でも不思議に思っている時があります。
そんなときに責められると「これは私がしたんじゃない」と言い合いになってしまうんですね。
介護者さんからすると、「おばあちゃんがやったじゃない」という思いもありお互いに引っ込みがつかなくなってしまいます。
でも認知症の方の中では、ただ「怒られた」、「叱られた」という思いだけが募ってしまうのです。」
商品を開発した時は、 “トイレ詰まりの問題が解消された”、“家庭が平和になった”との喜びの声を聞く一方で、”身体拘束をするのと同じ発想。利用者の自由な行動を制限している”といった批判の声もあったという。
島崎さんはこれに対し、行動制限でも身体拘束でもなく“こだわりを保障するもの”だと話す。
「行動制限でも身体拘束でもなく、こだわりを保障するものです。
“こだわりを保障する”とは、それまでの問題となる“こだわり行動”を“別のこだわり行動”に代償させて保障するということです。
決して止めさせたり、阻害するものではありません。
違う“こだわり”に上手に仕向けることで、それまで疎まれていた行動が誰にも好まれる行動になるように誘導するわけです。
ご本人様に悪気はないので、それを汲んで差し上げて頭ごなしに叱ったり注意をするのではなく、お困りの行動を上手に別の行動に転換させてあげられるような工夫をしていただきたいと思います。」
認知症の方が起こすトラブルや問題となる行動は、実際には想像つかないことをするケースも多い。
しかし、その行動の背景には、悪意があるわけでなく、本人としては当たり前のことをしている、もしくは当たり前のことがどうしていいかわからなくなる、という考えなのかもしれない。
とはいえ認知症介護は精神的・肉体的に負担が大きいことも事実。どちらにもやさしい便利な商品が今後も増えていくことを期待したい。
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取材日:2015年4月2日
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